SSブログ

◆ HUMAN ヒューマン The Human League (ヒューマンリーグ) 80'Sを代表するLove バラード 想定外かつ異色のコラボ-レーションがNo1シングルになる [Hits]

                                                           ORIGINAL 2008.7.1 Uphuman.jpg

 1986年11月、ヒューマン・リーグの「ヒューマン」がビルボード1位に輝きます。ジャム&ルイスにとって2曲目の全米1位獲得になります。ジャネットの『コントロール』が大当たりで勢いにのっているのを感じますが、この曲は勢いだけで1位になったのではない素晴らしい曲だと思います。
 そもそも一般の人たちなら、当時のヒット曲を連発していたジャネットの楽曲とこの透明感ある打ち込みリズムのバラード「ヒューマン」はリンクしないと思う。ただジャム&ルイス通だと、この透明感にジャム&ルイスがこれまで手がけてきたすばらしいバラードが結びつくと思う。

 さてこのヒューマン・リーグですが、英国のシンセ・ポップ・グループです。1982年「Don't You Want Me 」(愛の残り火)がUSAでも1位になります。この後、テクノポップというジャンルも確立していき、さらにMTV時代に入り映像と音楽とをむすびつけるプロモーションも浸透していく。その流れは、カルチャー・クラブやデュラン・デュランによってUSAの音楽シーンを席巻する事にもなり、ブリティッシュ80'Sやニューロマンティックムーブメントの先駆け的な楽曲となります。その後、ヒューマンリーグは、その潮流の中に埋没した感じもあり、そんなビックヒットは出ませんが、このジャム&ルイスとの出会いで再びシーンに返り咲きます。
 黒人プロデューサーのJam&Lewisとヒューマンリーグの接点は、ジャネットと同じレーベルのA&Mレコードのジョン・マクレーンによって引き合わされた模様。(マクレーンは、現在、マイケルの遺言執行人となっていて、マイケル死後のプロジェクトにも大きく関わっている)ジャネットの所でもふれましたが、マクレーンは、アイドル的でPOPなスタイルで売り出していたジャネットに、ジャム&ルイスのハードなSOUNDを結びつけた。そしてそれが見事にあたる。そして今作では、英国のエレクトリックPOPバンドとR&Bプロデューサーのジャム&ルイスを引き合わせるのです。これはある意味、ジャネット以上に異色のコラボレーションです。
 
 
 意外に思ったのは、ヒューマン・リーグ側は、シェリールやSOSバンドバンドを手がけていたジャム&ルイスの事を以前から知っていて、できるものならプロデュースしてもらいたいとも思っていたという事。メンバーの中心人物でリードボーカルの、フィル・オーキーは、ジャム&ルイスが手がけた1984年のChangeのアルバムをかなり気にいっている。

Change Of Heart ~ Expanded Edition

Change Of Heart ~ Expanded Edition

  • アーティスト: Change
  • 出版社/メーカー: Big Break
  • 発売日: 2011/10/10
  • メディア: CD


「ここ数年のイギリスの音楽シーンは、つまらない。僕が最高にワクワクしたアルバムは(ジャム&ルイスが手がけた)ずっとチェンジのままだ」という発言もしている。
 チェンジは、ジャック・フレッド・ペトラスとマウロ・マラヴァシという2人のイタリア系の白人によって作られたグループ。サウンドは、ディスコ、ダンスミュージックで、この2人がSOUND Createrとして楽曲を生み出していく。ヨーロッパでコンスタントにヒットを生んでいた彼らが、ChangeとしてUSAに進出してデビューするのが1980年。
 このデビューアルバムで、ボーカリストにブレイク前のルーサー・ヴァンドロスを起用しているのも大注目。ここから「A Lovers Holiday」そして「The Glow Of Love」がヒット。ナイル・ロジャースっぽいカッティングが心地いい「The Glow Of Love」は、この後、ヒップホップ系を中心にサンプリングされていきますが、2001年のジャネットのNo1メガヒットシングル「All For You」でのサンプリングが最高にいかす。(イントロの感触一緒です)
 そして1984年の5thアルバム『Change Of Heart』でジャム&ルイスを起用。クリエイターもあるジャックとマウロは直接のProduceはせず、全編ジャム&ルイスに委ねます。8曲中、4曲でジャム&ルイスは曲も書いていますが、タイトル曲をはじめこの4曲がどれもすばらしい。これまでは黒人系ProducerということでSOUNDも黒さを感じましたが、このチェンジのアルバムは、ジャム&ルイスが手がけていた一連のTABU系の作品の空気感とは違うのです。どこかヨーロッパ的な感触もするのです。
 そういった意味でも、ヒューマンリーグのオーキーが魅了されたのかもしれません。ただオーキーは、ジャム&ルイスはソングライターでもあるので、他者の楽曲をプロデュースすることはないと思っていたようです。そこにヒューマンリーグとしてのプライドみたいなものも感じます。
 
 しかし、そんなヒューマンリーグとジャム&ルイスを引き合わせたのが、ヒューマンリーグの北米大陸での契約レーベルのA&Mレコードのジョン・マクレーンだったのです。ジョンは、ジャム&ルイスに「英国のPOPバンド、ヒューマンリーグを手がけてみる気はあるか?」と聞いたところ、彼らからの返事はOKだったという。
 引き受けた理由をジミーはこう言っている。
 「彼らがポップグループだから興味をもった」と。これまでと違うリスナーを取り込めると思ったそうだ。周囲からも、自分たちがプロデュースするようなグループではないとも言われたようですが、ジャム&ルイスは「だからこそ異色のものがぶつかっておもしろいものができるのではないか」と感じる。そして、ジャネットを手がけたようなコンセプトは特に考えず、いいサウンドを制作することに注力したと。そうはいってもジャム&ルイスのプロフェッショナリズムというが職人芸は最高級で、ヒューマン・リーグに「Human」という今更ながらのグループのテーマソングのようなとてつもなく素晴らしい楽曲を提供するのです。

 後に『CRASH』として発表されるヒューマンリーグのアルバムの制作は
、1985年の1月から開始されたそうだ。プロデューサーは、コリン・サーストン。コリンは、ヒューマン・リーグのデビューアルバムも手がけ、デュラン・デュランも手がけている。ヒューマン・リーグは9ヶ月かけてアルバムを完成させるも、今作で彼らが目指したバキバキのダンスアルバムには仕上がっていなかった。もともとコリンは、そんなダンスサウンドを作る人ではない。ヒューマンリーグのメンバーも9ヶ月を経てそれがわかったと・・・
 そして、彼らが目指すものを作ってくれると思って浮上したのが、ミネアポリスのジミー・ジャム&テリー・ルイスだったのです。こうしてジョン・マクレーンの仲介で彼らは出会うことになります。

 そしてミネアポリスのフライトタイムスタジオで、既に出来上がっていた曲を、ジャム&ルイスProduceでやり直し、さらにジャム&ルイス作の3曲も加える。レコーディングの課程で、ジミーがおもしい事を言っている。
「プロジェクトを進める内にいろいろな発見があった。僕らが書いた曲と彼らが書いた曲、どちらが書いたかわからないような作品が生まれるようになった。"Jam”という曲は、僕らが書いたような曲だけど、実際は彼ら(ヒューマンリーグ)が書いた。一方で「Love Is All That Matters」という曲は、彼らが書いた曲みたいだけど、僕らが書いた。とてもいい感じだね、そういのって」(アルバムのライナーノーツより)
 個人的には、ジャム&ルイスが書いた「Human」「I Need Your Loving」「Love Is All Thar Maters」のクオリティーがすごい。ヒューマンリーグによる他の6曲とはぜんぜんちがうと思う。ヒューマンリーグ制作曲で、好みなのは「Party」かな。これはジャム&ルイスっぽい感じもある。でも正直な所、後の楽曲はそんなに好みではないな~。
 オーキーも言っているように、ジャム&ルイスは、曲も書きプロデュースしてこそのジャム&ルイス。ソングライターとしての才能もとてつもない。ただ、このアルバムでは、ジャム&ルイスはDanceアルバムという所を十二分に意識して作っている。他者の書いた曲を6曲もProduceするというアルバムも実はそんなにないのです。

 このアルバムからのシングル「ヒューマン」は、その素晴らしさからRadioで流れるだけでなく、元々ヒューマンリーグも得意とするMTVでもヘビーローテされ、チャートの1位に登り詰めます。ぜんぜんソウルではないオーキーのボーカルですが、R&Bでも3位となるヒットです。
透明感ある水水しい楽曲。ドラムプログラミングのリズムも心地いい。この水水しい感触のSOUNDはForce MD'sの1987年のR&B-No1シングルの「Love Is A House」という楽曲でも感じれる(ぜったい影響うけてる)。そして、このヒューマンのヒットで、ジャム&ルイスのすばらしいバラードもヒューマンチックというような表現もするようになった。ただリリックを掘り下げると、すごく平たく言えば「浮気しちゃった僕を許してほしい。人間は時には過ちをおかしてしまう」という感じで、そこまで心に突き刺さるような内容でもないという・・・まんが日本昔話のエンディングテーマ「人間っていいな!」と意味合いが違うのである(爆)。でもこの素晴らしいメロディーにのせられたリリックを聞くと「あ~人間って」って心に染みる。
 
 この曲のレコーディングエピソードについて、テリーが語っている。
 「当初、この曲はフィリップには歌えないかもと周囲は思っていた。彼は元々無機質な歌い方をするボーカリストで、その声と曲がフィットしてヒットも生んでいた。しかし、このバラード曲はそれではいけないと。そしてフィルは、何度も何度も練習して、この曲のフィーリングをつかんで歌声にするのに1週間かかったよ」と。
 フィル・オーキーのボーカルは好き嫌いが分かれる所。「ヒューマン」は良いとしても、他のダンス曲は乗り切れていない印象だけど、フィル・オーキーらしさは十二分に出ている。「I Need Your Loving」なんてすごくTimeっぽいミネアポリスFUNK。それをこういうタイプのボーカルで歌うのはおもしろい。フィル・オーキーがんばってる!
 「Love Is All That Matters」も「ヒューマン」級のすばらしい楽曲。マーチっぽいSOUNDもいい。この曲もNo1シングルになりえるようなクオリティーだと思うのだけど。ジミーは、ヒューマンリーグが書いたような曲と言ってるけど、オレ的にはどうみてもジャム&ルイス作しか聞こえない(Alexの「Our First Christmas」の雰囲気も感じる)。
 「Human」を含むこのジャム&ルイスによる3曲は、Extendedバージョンもあります。そしてそれが再発盤にすべて収録されています。これは必聴だと思います。

クラッシュ+3(紙ジャケット仕様)

クラッシュ+3(紙ジャケット仕様)

  • アーティスト: ヒューマン・リーグ
  • 出版社/メーカー: ユニバーサル ミュージック
  • 発売日: 2017/11/22
  • メディア: CD

 さらに、このアルバムは1986年作ですが、同じ年に発表されているジャネットの『Control』、SOSバンドの『Sands Of Time』と録音環境も違っていると思う。デジタル化がすすみ、録音バランスがすごくよくなっている。No1シングル「ヒューマン」もめちゃクリアで音がいい。オーキーたちもその仕上がりに大満足したにちがいない。逆に、お蔵入りになったコリン・サーストン盤『CRASH』も聞いてみたくなる。
 オーキーらヒューマン・リーグのメンバーは、音作りをまるまる他者に委ねたのは初めてだったという。そしてジャム&ルイスのプロフェッショナリズム、曲作り、機材の使い方に相当刺激をうけた模様。ただ、ヒューマンリーグのファンは、「Human」というメガヒットシングルを生んだとはいえ、全編ジャム&ルイスが手がけたこのアルバムはヒューマンリーグらしさがないと思っている人も多い。オーキーも、そういう風に感じてるみたい。
 
「ヒューマン」は、ジャム&ルイスの思惑通り、POPチャートでも受け入れられNo1シングルとなります。この曲は80'Sの代表格バラードの一つにもなっていますが、間違いなくジャム&ルイスを代表する曲のひとつでもある。彼らは後にボーイズⅡメンに「HumanⅡ」(Don't Turn Your Back On Me」という楽曲も提供している。それだけ彼らにとっても大切な楽曲なのだと思う。

EVOLUTION

EVOLUTION

  • アーティスト: BOYZ II MEN
  • 出版社/メーカー: MOTOW
  • 発売日: 2001/01/03
  • メディア: CD

 「ヒューマン」のヒットはもう一つ重要な出来事の後押しになったと思います。それは1986年度のグラミー賞で、ジミー・ジャム&テリー・ルイスが最優秀プロデューサーを受賞したこと。ジャネット・ジャクソンの『Control』も素晴らしいアルバムですが、このアルバムだけでは最優秀プロデューサーの栄冠はつかめなかったかもしれない。「Human」の楽曲のクオリティーとヒットも後押しになったと思う。
 80’S系のオムニアルバムや、Loveバラード集にもこの「Human」が収録される事は多い。白人エレクトリックバンドのヒューマンリーグの曲なので、まさかの黒人プロデューサーのジャム&ルイスが手がけている事を知らない人は今でもけっこういるのかも。POPバラードとして多くの人に聞かれるようになった事は、彼らにとってもまた自信につながったのだとも思う。


コメント(0) 
共通テーマ:音楽

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

Facebook コメント